2017年3月3日金曜日

学校で経験したことが役立った「ある方法」とは          ・・・・・・   imasan

1.今回のテーマはどんなこと?
一般的に、学校で習ったことが、社会へ出で直ぐには役立たないと言われている。
私の経験したことであるが、大学の卒業研究の実験で使ったある方法が入社3年目で役立った例を紹介したいと思います。



2.卒業研究のテーマとその方法
私が所属した研究所の卒研のテーマは「ジェットポンプの研究」です。
そのテーマを選んだ理由は、ただ、ポンプメーカに入りたいとの希望があっただけのことでした。

思い出すのは、その卒業研究結果の発表の時、Watanabe君が説明を始めた最初の段階で、町田教授より発言がありました。「毎年、毎年同じテーマの研究で進歩がない。他のテーマを選んではどうか」と言う提言でした。
一瞬、何故この段階でと唖然としたが、それに怯まず、Watanabe君が発表を続けてくれました。


卒研を発表するWatanabe君
さて、この研究では、吸い込み口の口径、先端ノズルの形状と位置などパラメータが多く、全ての組み合わせで実験するには時間がかかります。
それで使ったある方法」とは、統計学の「直行配列表を使った実験計画法でした。
研究室の本棚に何冊かの本があるのに気付き、自然と使った記憶があります。


吸い込み口

サイズの違うノズル
3.学校で使ったことが役立ったこと
学校を卒業し会社に入社し、繊維機械の自動ワインダー製造部門の生産技術係に配属された。
その3年目の昭和40年4月、上司から中央研究所に「硫酸浴による硬質アルマイトの研究」を依頼しているが、目標の硬さが得られていないので、研究に加わるように言われた。
それが、出来ないとKaneboさんに自動ワインダーを買ってもらえないのだと言う説明だった。
その理由は、これまでアルミの鋳物に硬質Crメッキした綾振りドラムを使っていたが、メッキが溝底にはつかず、アルミ地と糸が擦れて染色に悪いという理由からでした。
一方、硬質アルマイト処理したドラムは、溝底まで均一にアルマイト層がつきます。

この研究の目的を聞いて、卒業研究で経験した実験計画法を使ってテストする事が最適と判断し提案した。
その理由は、「何が、硬度に影響を与える主因子かをいち早く見出せると思ったからである。
その後、上司と研究者の許可を得て、具体的に硬質アルマイト処理の4つの因子をあげて、それぞれ2水準の実験条件を決め、直行配列表を使った実験計画を立てた。


実際の実験計画
その実験を行い、データを分散分析した結果、硬度に大きな効果のある因子が電流密度であることを見出すことが出来た。
主要因が判明したので、他の条件との組み合わせ第2回目の実験をした結果、目標の硬さ
を得ることの出来る処理条件が見いだされた。

実験の解析結果
その結果、幸いにもKaneboさんから初めて自動ワインダーを受注することが出来た。
受注した最初の1台分は、1度に2個しか出来ない小さな実験装置でアルマイト加工した。


表面が黒い色が硬質アルマイト加工したドラムです
この経験から、諸条件を2個の処理からを26個分へのスケールアップ設計をすることで、設備が完成した。素人私が出来たのは、その方法が考え方の道筋をつけてくれたのだと思います。


ただ、残念ではあるが、アルマイトの設備が出来てから6年ほどで、繊維機械から撤退した。
以来、その後の趨勢が分からないままだった。



4.何故こんな話を今?
今年、町内会のゴルフクラブの新年会で隣に座った方から、何処の会社にお勤めか聞かれた。
会社の名前を答えると、御社からいろいろな部署のアルマイト処理をさせてもらい儲けさせてもらっていると言われた。
この「アルマイト」と言う言葉を聞いて、50年前の硬質アルマイトに関する様々なことが蘇ってきたからです。何か熱いものを感じました。それが今回のテーマです。



5.50年前の設備はどうなっているだろうか?
硬質アルマイト加工設備は、綾振りドラム製造専門メーカの要望でそこの建屋に設置した。
その工場がどうなっているのか気になって、恐る恐るメールを送ってみた。

すると下記の返信が届いた
本日は、私共の事を想い出して頂きまして、お便りを下さり、誠に 嬉しく 有難うございます。
お名前は、よく父から、“開発から、製品まで、○○さんのお陰で出来たんや”と、いつも感謝して、皆に話して聞かせておりましたので、記憶しております。
おかげさまで、今も、ワインダー用のドラムを造らせて頂いております。
設備・建屋とも古くはなっておりますが、今だ、機能は充分に発揮して、アルマイト処理を続けさせて頂いております

と懐かしい心温まる内容だった。返信の言葉に心が動いて、先月24日に大阪八尾にある工場を訪問し、硬質アルマイト処理工場内を見せて頂いた。(下の写真)

当初より少し大きくされた処理槽

担当の方の話で、今も当初と全く同じ条件で硬質アルマイト処理を週2回されているとのことだった。アルマイト加工された素晴らしい製品と工場の皆様と話が出来に感激した次第です。

現在は、アルマイト加工ドラムの時代から球状黒鉛鋳鉄にイオン窒化処理したドラムに変わってきているそうだ。
しかし、硬質硫酸アルマイト加工の条件は変わっていなく、国内の多くの所で行われている。



これ、偏に「実験計画法」のお陰、いや、「ジェットポンプの研究」のお陰である。何をどう使うかのアイデアがあれば、学んだことを生かせると思う。

9 件のコメント:

  1. 今川さん、卒研テーマの資料が手元に残っていたことに驚いています。入社のための面接で「卒研テーマは?」と質問された時、「スベリ案内面に於けるステックスリップの研究です。これはオイルフイルムが云々・・」と自信を持って答えた若き日の昔日へタイムスリップしてしました。実は、卒研の写しを手元に残したかったのですが、今ほど簡単にコピー出来ない時代でしたので何も残っていません。今は記憶も薄れています。
    それにしても、在学中に実験計画法をマスターされたことに敬服致します。私は、入社して3年目に、ベリリュウムカッパーのスポット溶接の溶接条件を決めるのに、初めて使いました。
    若き技術者の成果が、今も脈々と稼働していることを目にして感動一入だったと思います。羨ましいですね。今川さんの会社での活躍の一端を垣間見させて頂きました。

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    1. 大島様、読んで頂き有難うございます。大島様も実験計画法を使われたのですね。ミナヨシの皆さんも、多分、ご存知なのでしょう。
      もっと、広く使われても良い方法といまだに思っています。
      写真は、学生時代のものですが、エンピツで手書きの資料は、会社で実際に作成した資料で、手元に残しておいたものです。
      記憶の底に眠っていた半世紀前の話です。

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  2. 久し振りに、ミナヨシ会らしい、素晴らしい記事だと感心しました。実験計画法という基礎技術を活用し、社会に役立てたという、「成功物語」ですね。記事の組み立てもわかりやすく、よくできていると思いました。私も入社後4年くらいの時、実験計画法の本を買って参考にしたのを覚えています。地道な研究から実用化へという仕事のやり方にも感心しました。imasanの会社での仕事振りがうかがえました。

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    1. 豊島様、昔の話を良く読んで頂き有難うございます。
      実験計画法がもっともっと使われたらと言う思いをスーット持ち続けていましたので、このブログで書けて良かったです。
      ゴルフ仲間が経営するアルマイト工場も先月見せてもらいまました。
      活気がありました。アルマイトは、若き日に情熱を注いだ仕事でした。

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  3. 今川さんの学生時代の卒研テーマで、実際の仕事で役立てたというのはすばらしいですね。入社当時、研究室の卒研とは全く異なる分野への配属で、真に学校で学んだことが役立つのかと疑問に思ったこともありました。でも実際に仕事をやっていく過程で、何らかの形で学生時代に学んだことが役立っているものですね。私も、入社時はメンテナンス部門に配属になり、設備機械の修繕に追われる毎日でした。学生時代の勉強とはかなりかけ離れていたように感じたものです。しかしながら、色々の場面で学生時代に学んだことが役立つことを、色々な場面で体験しました。その後、生産技術部門での仕事にも、現場経験や、学生時代の研究が役に立ったと思います。それにしても50年前の体験が、関連会社で活きていたとは感動ものですね。

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    1. 野尻様、読んで頂きありがとうございます。入社し、技術課に変わるまでの6年間は、野尻様と同じ生産技術係で現場に浸かっていました。また、同じように工作機械をの修繕も現場の人と一緒にしました。
      お陰で現場の職長さんはじめ皆さんと仲良くなりました。
      好きなことが出来て面白かったですね。
      でも、野尻さんの自動車会社など、生産技術はとても進んでいたでしょう。

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  4. imasan投稿ありがとう。その記事に胸が震えるほど感動しました。私のコメントも既に寄せられたコメントと重複します。そしてこのブログに遂に実験計画法がという感じです。こんな素晴らしい経験談は同窓会では聴くことが出来ないでしょう。それがこの様に纏まった形で伺い知ることが出来ることはありがたいことです。野尻さんも書かれてますが、50年前の体験(技術)今も受け継がれていること、そしてそれを先月目の当たりにされたimasanの胸中はいかがと思います。imasanに限らず他のミナヨシ会員(限定された会員でない)の皆様も成功事例、失敗談が沢山あると思います。そのようなお話を伺えるとうれしいですね。そうそう、町田教授の発言に怯まず敢然と発表を続けたWatanabe Genさんは今、どこで何をしているでしょう?彼の眼鏡をかけた表情、声までも蘇ります。

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    1. 石井様、コメント有難うございます。少し褒め過ぎですで恥ずかしいです。これも、石井君提案のブログのお陰で、お話しする機会が出来ました。
      また、有難いことに、業者の方から、「もし、宜しかったら、訪ねてやって下さいませ。 お待ちしております。」とメールが来て行ってきました。
      渡辺君ですが、卒業まじかに、私の描いた25号の抽象画(油絵)を欲しいと言われあげました。1度、その絵をもう1度見たいという思いがあります。持っているかな?

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  5. 今川さんが入社3年目に配属された部署で、責任を持ってあれだけのことをなしとげたことは、機械工学科から落ちこぼれそうになった小生から見るとまさに驚異的な成果です。しかも学生時代に習った実験計画法を駆使して成し遂げたというからなおのことです。野尻さんのコメントにもありましたが、卒業後は、それぞれみな千差万別のことをやっていたのかと推察します。そこで何かをやり遂げるのが一人前の社員ということですね。渡辺玄?さんという人も不思議な人ですね。見かけはコワい人ですが、結構気さくで、私がスピードスケートのことをはなしたら、一緒にスケートしに軽井沢のスケートセンターに行こうということになり、おかげで楽しい一日を過ごしました。会ってみたいですね。

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