2019年5月1日水曜日

「はんゆう展」その2 (A.Ishii)

3月末「はんゆう展」その1を投稿しました。その中でモダンアートの部分も紹介しました。モダンアートと言うと、理解できない、よく分からない、何を言いたいのだろう、何を描いたのだろう、という批評で終わるのが一般的です。ところがこのモダンアートに関することが思わぬ方向に進展したのです。

近所の知人、村木さんも「はんゆう展」をご覧になり、あのモダンアートを出展している杉江先生の色彩感覚は素晴らしい。杉江先生にお会いしてお話を聞きたいので紹介して欲しいとのこと。この村木さんは長年絵の勉強をして、いまでも写実的な絵を描いておられます。私は芸術的なことは分からないが、制作の行程を知りたいと思い、村木さんと下田市吉佐美にある杉江先生の版画アトリエを訪ねました。以上が経緯(いきさつ)です。

(1)概要
先生の版画は謄写版でした。我々が小学生の頃はテストは藁半紙に謄写版で刷った手書きの問題を配布されました。蝋紙に鉄筆で字を書くとその文字はインクを通し下に敷いた藁半紙に写る仕掛けです。ある時期からその非効率なやり方は現代的な方法に変わり、謄写版の機械と蝋紙等は廃棄される羽目になったのです。先生はその機械と専用の紙を引き取り、利用して版画を始めました。長い年月を掛け試行錯誤の末に今の作品が制作されるようになったのです。

(2)具体的な方法
イ)下絵を描いておく

*ケント紙の上に絵具で下絵を描く。
*4枚の下絵は似ているようだがそれぞれ
 異なる。
*下絵はそれぞれ全く同じ位置に描かれる。
*説明のために4枚用意したが1枚でOK。








ロ)蝋紙を乗せる

*丸く、くり抜いた蝋紙を乗せる。
*目的は白い余白にこれから乗せる黒い
 絵具が付着しないように保護するため。
*これもきちんと位置決めする。









ハ)元絵を乗せる

*絵具を通す紙(例:コーヒーフィルター)
 にニスなどで描いたものを乗せる。
*元絵は自分のイメージするものを描いた
 大事なものである。
*時にはクレパスを併用することもある。
*位置決めは慎重にする。







ニ)黒絵具をローラーで塗る

*黒絵具をローラーで全体に塗る。
*ローラーは絵具を付けて少し空転すると
 上手く塗れる。 
*今回は色は黒であった。









ホ)刷り上がり

*以上で最も簡単な作品が完成した。
*絵具が乾燥するには5~6時間かかる。











以上は説明のため簡単な1行程をみせてもらった。この様な作業を何回も重ねて作品にしでゆくのである。1作品に元絵を何枚も用意する場合もある。元絵を描く技法も大変なもので、ニスを垂らす、クレパスを利用する、歯ブラシに付けた絵具を飛ばす、絵具を指でこする、其の他いろいろある様です。今回はA4サイズで実演してもらったが、展覧会に出品するもので大きなものは 98cm X 130cm になる。従い小さな謄写版では刷れないので大きな謄写版機を自分で作ったそうである。(写真がなく残念)


(3)他の作品例

この作品で何回くらい色を重ねただろうか? 何だか気が遠くなりそうである。  


(4)同じ方法をとる芸術家











同じく似た方法の有名な版画家として2冊の作品集を見せてもらいました。右の作品集の作者はFUKITA FUMIAKI(吹田文明)と言う方で、まだお元気とのこと。しかしこの様な版画手法の人は稀で、日本では自分と吹田先生くらいとのこと。杉江先生の技法を継承する人は?との質問に「継承者はいない」と杉江先生は少し寂しそうでした。


(5)偶然の出来事(全く偶然)
連れの村木さんと帰宅したのは夕方でした。その晩、録画しておいた「開運!何でも鑑定団」を見ていたら最後の部分に、その吹田文明先生が出演していたではないですか!私は食入る様に何回も見ました。大変立派な経歴の方でした。それではその動画を(拡大画面で)ご覧ください。



(6)杉江先生の代表的作品
   2010年からの モダンアート 展 会員出品作品 を見てみよう。(クリックする)

     
                       (左上のをクリックすれば戻る)

毎年 絵画 彫刻 版画 写真 デザイン スペースアート に分類されて展示される
モダンアート展への出品作品です。私の友人,imasanが「理屈は必要でなく、見る人が感じたまま」でよいのが抽象画であると言いました。余り難しく考えないで見ていただけたらよいのでしょう。


(7)まとめ
「はんゆう展」を見に行き、そのまま終わるはずであったのが、近所の知人の村木さんの熱意によって杉江先生のアトリエまで訪ねてしまいました。そして偉大な 吹田文明先生 も知ることになったのです。今後は抽象的な版画、広くは芸術作品を見る自分の目が多少なりとも変わるのではないかと思います。
           一緒にアトリエをたずねた 村木さん(左)と杉江先生です。
                     (おわり)

16 件のコメント:

  1. 版画は、シルクスクリーン方法の一種ですね。
    一般的に、描いた絵、形や輪郭の方に絵具を通すのですが、今回は、絵や形の方をロウで封をして、背景に絵具をスクリーンで通す方法ですね。
    シルクスクリーン方法での版画絵は、アメリカのアンディウオホールが有名で、マリリンモンローの顔をいろんな色で大量生産しました。

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  2. imasan、あなたはどうしてそんなに色々の事を知っているのでしょうか!本当にビックリしますが、裏返すと私が余りにも物事を知らなさ過ぎと言うことになるのでしょうか?いとも簡単にシルクスクリーン方法、アンデイウオホール、マリリンモンロー、の言葉がポンポンと出てくるのには本当に驚きです。確か杉江先生も "シルクを使う人もいる"とか言ってましたが、予備知識もない私は聞き流してしまいました。おっしゃる通り楽天市場などで調べると、Andy Warhol はマリリンモンローを沢山刷って(コピーか分かりませんが)販売していることも分かりました。imasanが版画のことをこんなに深く知っていると言うことは、過去に版画に携わった経験があるのでしょうか?そうとしか思えないのですが。

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  3. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  4. 少しミスがあり削除しましたので、改めて書き直します。
    この記事は、稀かつ貴重な内容と思いました。私の水彩画とは次元が違い過ぎます。掲載されたいくつかの絵を拝見しましたが、内容が濃く、これが芸術と思いました。奥が深いですね。作製プロセスは少しわかったような気がしますが、難しいですね。動画も理解するのに役に立つと思います。動画と言えば、水彩画と太極拳の動画をよく見ています。
    それにしても、imasanの博学には、恐れ入りました。

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  5. コメントありがとうございます。Toyoshimaさんの水彩画とは全く異なる分野で、比較することは不可能ですね。この様なモダンアートは何だか自己満足の世界ではないかと感じました。私は芸術的には理解できませんが、その制作工程がどうなっているのかと興味を持ちました。しかしまだ理解できないところもあります。imasanは本当に博学と言う言葉がぴったりですね。田舎の展覧会ですが観に行くとそれなりに感心する作品もあり、絵を描くという素晴らしい趣味を持った方々が沢山おられることに気づきました。そしてToyoshimaさんの絵はいつも楽しみにしており、感心して拝見しております。また宜しくお願いします。

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  6. 石井さんも多趣味なのには驚きました。お宝鑑定団はよくみますが、吹田文明さんのは見逃しました。私のいた職場で、版画展(メキシコ国際版画コンクール?・南砺市美術館の版画コンクール)で、たしかグランプリをとった部下がいましたが、あることでトラブルがあり喧嘩別れしてしまいました。そんなわけで版画というと複雑な思いがあります。それはそうと絵画とはまた違った魅力があるようですね。

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  7. お友達にそんなすごい版画家いたのですか!版画と言ってもいろいろで、作者も説明できないようなものからimasanに教えて貰ったAndy Warholのマリリンモンローのようにズバリ分かるものと幅が広いですね。私はながいこと絵画を観ることもありませんでしたが、Toyoshimaさんの絵に接して絵を観るようになりました。理屈抜きに作品を眺めていると心が癒される感じがします。何だか自分のことだけを書いたようなコメント返信になりました。

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  8. 杉江さんと吹田さんの二人しかない版画技法に陶然と暫し時を忘れていました。かたちのないものを
    捉えようと謄写版に向き合い、一本の線、一点の墨の跡に奥深い情感が滲み、しなやかな色合いに貫かれた作者の心が凝縮されている様に思えました。小学生の頃、木版画を作りました。版木、彫刻刀、絵の具、バレンなど使って、年賀状作成は楽しかったです。彫っている時は多少自信がありましたが、完成してバレンでこすってみたら余りにも下手糞で落胆したのが思い出されます。、

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    1. 杉江さんはアマチュア、吹田さんはプロの違いがあり、作風もかなり異なる様に見えます。吹田さんは鑑定団に出演しても、一芸に秀でた人らしく自信たっぷりの話し方でユーモアもありますね。小学生の頃の木版画造りの私の想い出は、彫刻刀の素晴らしい切れ味に驚いたことです。作品は私もへたくそで版画に対する興味も長続きしませんでした。

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  9. 私は、版画制作をしていません。ただ、定年後、滋賀県立近代美術館の解説ボランティアを4年やっていました。お客さんの前で説明をしなくてはいけないので、学芸員の講義を受けたり勉強もしました。現代美術(抽象画など)は、興味が持ち説明する人も少なかったので、私は良く解説をしました。また、近代美術館には、アンデイウオホール作のマリリンモンローの収蔵画もかなりあり、絵の前でよく説明もしました。色んな作家が色んな手法で作品を制作しています。必要から、その制作手法も調べて解説したりしました。
    私は、高校時代に岡本太郎の「今日の芸術」という本に興味を持ち、油絵で抽象画を描いていました。だから抽象画は好きで、美術館でも色んな作家の絵を見て、解説も好きでしていました。ただ、それだけです。でも、お客さんがとても少なく何とかならないかいつも思っていました。

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  10. 定年後、美術館の解説ボランテイアを4年とは立派な事で尊敬します。さすがimasanという感じです。高校時代から岡本太郎の「今日の芸術」に興味を持ち抽象画を描いていたと言うのもすごいです。以前に貴兄の絵手紙を本ブログで拝見しましたが、写実的な絵も相当の腕前と感心したものです。人に芸術作品を解説するには物凄い勉強をしないと出来ないと思いますが、芸術だけでなく広い分野(例:パソコン、花、歴史、仏教・・)に亘りimasanはよく勉強されているといつも感心しております。今回無知な私が版画とモダンアートを組み合わせて投稿したので自分でも少し複雑になったと反省しております。

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  11. 今回投稿されたのは、モダンアートの版画そのものです。間違っていませんよ。
    シルクスクリーンは、作品を大量に擦れる方法で紹介されたのは良かったですよ。
    実生活では、シャツに、文字とか模様など色々なものを刷り込んで売っています。
    こういうことでモダンアートに触れると、美術館へ行っても理解が深まります。
    良い投稿でしたよ。

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  12. 抽象画というのは、一時ジャズでフリージャズというのがありましたが、ちょっと似ているところがあるのかな、なんて思ってます。石井さんの精力的な活動には、感服しております。
    今後益々の御活躍を、期待しております。

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  13. Unknownさん、うれしいコメントありがとうございます。フリージャズで検索して、A collective improvisation by the ORNETTE COLEMAN を1~2分聴いてみました。成る程貴兄がおっしゃる意味が知識のない私にも少し理解できた気がしました。抽象画の色を音に置き換えた感じでしょうか!話は変わりますが学生時代、貴兄は大きな楽器(ベースと言うのかな?)を演奏しておられた。そして更に楽団員としてKimuraさん(クラリネット)、Mikamiさん(トランペット)が一緒に壇上で颯爽と演奏している状景を想い出しました。記憶とは不思議で突如思い出すものですね。もし私の記憶が間違っていたらどうかお許し下さい。

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    1. A.Ishiiさんと言えば、桐生にいた頃、何日か啓真寮に泊まりに来られたことを、思い出します。バンドの話ですが、今でも学生時代に覚えたドラムを叩いておりますが、今年になってから、メンバーになっているバンドの活動が、低調になっており、残念です。

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  14. 大変失礼しました。バンドではドラム担当でしたね。いずれにしてもスポットライトを浴びて颯爽と演奏する皆様がまぶしく見えました。そして今でもドラムを叩かれるとは感心しております。

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