2018年7月6日金曜日

今年の掛軸制作と課題  (野尻貞夫)

暫らく投稿から遠ざかっていますが、以前(2017年2月)に私の趣味の一部を紹介しましたが、今年も仲間の趣味の会(ギャルソン展)に向けて作品の制作に励んでいます。今回はその制作過程の一部を紹介して私の投稿の責任を果たしたいと思います。 今回の作品は、道元禅師の「典座教訓」の中の一文と、今年の大河ドラマ「西郷どん」の中で既に物語では過ぎていますが、「安政の大獄」に絡んで、次期将軍に「一橋慶喜」を推す「僧:月照」への大老:井伊直弼の追及を逃れるため、月照を守って西国に逃れる途中命運尽きて「月照と共に入水」、月照はついに不帰の客となったが、西郷は息を吹き返した。西郷が僧月照の十七回忌に読んだ七絶を取り上げた。


読み方:須(すべか)らく道心を運(めぐ)らして時に随(した)って改変し大衆(だいしゅ)をして受用(じゅよう)し安楽(あんらく)ならしむべし 【食事を作るには、必ず仏道を求めるその心を働かせて、季節にしたがって、春夏秋冬の折々の材料を用い、食事に変化を加え、修行僧達が気持ちよく食べられ、身も心も安楽になるように心掛けなければならない】


読み方:あい約して淵に投じ 後先(こうせん)なし あに図らんや 波上再生の縁(えん) 頭(こうべ)を回(めぐ)らせば 十有余年の夢 空(むな)しく幽明(ゆうめい)を隔(へだ)てて 墓前に哭(こく)す 【互いに身をつないで、薩海に飛び込んだ時は、死なばもろとも、後も先もなく、わが身ひとり宿縁あって生き残らねばならぬなどとは、夢にも思いがけなかった。思いめぐらせば、もはや十七年の夢と化し、今日むなしく幽明ところを異にして、自分は君の墓前に慟哭し、君の菩提を弔らおうとは、さても倬(いた)ましいかぎりである。

次に表装の過程の一部を紹介します。
先の作品は既に2度の裏打ち(肌裏、増し裏)を終えたものです。これに同じく2度の裏打ちをした裂地(きれじ)を繋ぎ合わせます。
上の写真は作品に柱(左右の裂地)と天地(上部と下部の裂地)をつなぎ合わせる前の状態です。左右の柱をボンドでつなぎ合わせ、次に上下の天地を同じくボンドでつなぎ合わせます。


右上の写真が作品と裂地を繋ぎ合わせ、左右の柱と天地の裂地を整形カットし、左右の裂地を裏側で3ミリほど折り曲げて(耳折り:両端面をきれいに見せる)端面整えた状態です。この時一番気を遣うのは天地と柱の柄模様がキチンと揃うように調整することです。
この後もう一度全体を少し厚めの和紙で裏打ちし(総裏打ち)して全体を補強します。

 天の部分に八双(はっそう):上部の「釻(かん)」を付ける部分を八双袋に包み込みます。
地の部分に端部に軸端んを取り付けた軸棒を軸袋に包み込んでほぼ完成です。

上記の写真は完成して落款印:「引首印:右上」と「姓名印(白文)と雅号印(朱文)」を押して完成です。
もう一つの作品は「中回し」を付けて少し飾ってみました。以上ですが暑さの中で汗を気にしながら掛け軸を製作しました。くどくて申し訳ありません読み飛ばしてください。






12 件のコメント:

  1. 野尻様、作品制作の上での投稿、ご苦労様でした。ギャルソン展も毎年ですね。
    さて、記事のレイアウト、上から下に読み進めてこれで良いと思います。
    道元禅師の言葉は、食事だけでなく、何をするにもこの心掛けが大事ですね。いい言葉。
    月照の十七回忌に読んだ句、西郷どんの物語の裏の1ページを見るようですね。
    2人が身を投じると言うのも物語以上の事実ですね。
    西郷が、もし、死んでいたら後の歴史が変わっていたでしょう。
    生き残るのは、運でしょうか、天の命なんでしょうか。何なんでしょうか。
    貴君のかかれた書の文字の形、好きな感じです。

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    1. 西郷南洲の遺訓集は前から愛読していますが、今年の大河ドラマで「西郷どん」なのでぜひにも西郷隆盛のものを載せたいと思い、タイミングよく月照との入水のシーンが出て来たのでこの七絶を書いてみました。

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  2. 投稿お疲れ様でした。道元と言えば、中学の時の英語の先生が曹洞宗の住職さんで、坐禅を勧められました。この時以来、禅宗に興味があり、弓道部の時、弓道は禅宗の影響を受けていることを知り、「弓と禅」という本を読んだりしていました。般若心経に関心があるのもこの流れと思っています。数年前に、曹洞宗の大本山である、「永平寺」(福井県)に一度行ってみたいと思っていましたが、それも叶いませんでした。今でも坐禅と写経は続けています。
    よい投稿で感心しました。書を見るとなぜか落ち着きますね。解説もありがとうございます。

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    1. 昨年の12月3日の読売新聞の日曜版に「名言巡礼」食事作りも修行の機会と題して道元禅師の教えが体現される修行道場:大本山永平寺が紹介されました。この時道元の「典座教訓」が紹介され、ちょっと心に留まったので、原文を探して、本を買いました。

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  3. 品川ミナヨシ会では大変お世話様でした。あのときも言っておられましたが、大作2点素晴らしい出来映えですね、わたしがが言うのも気が引けますが。「安楽」という文字で終わっていると何の関係もないのに、悪い気がしませんが、須らく道心を運らしていないせいか、「岡」がつくと、途端にレベルが下がるような気がします。以前表装についても説明されていましたが、そうすることによって作品そのものに命が吹き込まれるような感じですね。
    大作の完成誠におめでとうございます。

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    1. ご指摘を受けるまで「安楽岡」さんの名前との関係を気が付きませんでした。失礼しました。でも「安楽」とは良い響きですね。食事をして身も心も安楽になるように心掛けなさいとは良いことですね。作品の完成を褒めていただき有り難うございます。

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  4. 道元禅師の「展座教訓」は、修行僧に対してだけでなく私達にも相通じる教訓ですね。紙面一杯に力強い運筆には、毎回惚れ惚れと感動しています。西郷隆盛が僧月照の17回忌に詠んだ七言絶句は、字数が多いのに見事に整然と揃っているのには驚きました。字数が多いとどうしても不揃いになりがちですが、それを微塵も感じさせない傑物です。ところで、ギャルソン展の題材を提案しても良いですか?気が向いたら何時か取り上げて貰えば嬉しいです。
    それは、干武陵【うぶりょう】の勧酒【酒を勸む】です。
    勧君金屈巵  君に勸む金屈巵【きんくつし】
    満酌不須辞  満酌辞するを須【もち】いず
    花発多風雨  花発【ひら】けば風雨多し
    人生足別離  人生別離足る
    意訳:君に黄金の杯を勸める このなみなみと注がれた酒を断ってはいけない 花が咲くと
    雨が降り風も吹いたりするものだ 人生に別離は当然のこただ
    井伏鱒二の名訳:この杯を受けてくれ どうぞなみなみと注がしておくれ 花に嵐のたとえにもあるぞ さよならだけが人生だ
    この詩を目にして、これを掛け軸にしたら素敵だなと思ったので提案しました。
     














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    1. 昨年は貴兄の提案した「徳川家康の家憲」を書しましたが、かなと漢字で、かつ文章が長いので纏めるのに苦労しましたが、今回のはまた文意が難しいようですね。干武陵【うぶりょう】という人(?)を知りません。ここから勉強しなければなりません。作者と文意を十分に理解しないとよい書が書けません。勉強します。教えてください。

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    2. 干武陵については、https://ja.wikipedia.org/wiki/干武陵 でホームページを開いて見て下さい。参考になると思います。

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  5. 西郷さんの方で読める文字は半分もなく、1行目では「約」「渕」「先」しか読めませんでした。恥ずかしい限りでコメントできません。皆さんはよく勉強されておられると感心しております。総てを理解されて美しい文字を書くことを趣味とされ、折に触れその作品を目にしていたら心豊かになるでしょう。次回の作品(解説付き)を楽しみにしております。(A.Ishii)

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  6. タイトルを付けるために再編集したいのですが、今川さんから教わった方法を忘れてしまいました。タイトルは「今年の掛軸製作と課題」とでもしましょうか。石井さん、もしくは今川さん編集し直しお願いします。解説が足りなかったので追加します。「相約投淵無後先、豈図波上再生縁、回頭十有餘年夢、空隔幽明哭墓前」が西郷が読んだ七絶の原文です。

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  7. 了解です。編集方法は別途メールでご連絡します。取りあえずタイトルを記入して体裁よくしましたので確認して下さい。解説が足りなかった部分は、済みませんがご自分で追加して編集して見て下さい。(A.Ishii)

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